(2026年4月時点の情報です)
- NVIDIA GR00T(Isaac GR00T)は世界初のオープンヒューマノイドロボット向けファウンデーションモデル。2025年3月にN1を公開
- 「System 1(200Hz高速行動)+System 2(VLM推論)」のデュアルシステム構造を採用。人間の脳の高速直感と低速思考を模倣
- 2026年3月のGTCでN1.7(商用版)とN2プレビューを発表。N2は既存VLAモデル比2倍以上の成功率を示すと予告
- Figure AI、Boston Dynamics、Agility Robotics、1X、Apptronik、NEURA Roboticsなど主要ヒューマノイド企業のほぼ全てが採用または評価中
- Jetson Thorエッジコンピュータと組み合わせて、ロボット内部でリアルタイムに推論を実行
NVIDIA GR00Tとは?「ロボット版GPT-4」を目指す基盤モデル
NVIDIA GR00T(正式名称: Isaac GR00T)は、ヒューマノイドロボット向けに設計されたオープンなファウンデーションモデル群です。NVIDIAが2024年3月のGTCで「Project GR00T」として構想を発表し、2025年3月に最初のモデルGR00T N1をオープンソースで公開しました(NVIDIA)。
ChatGPTがテキスト分野におけるファウンデーションモデルの代表例だとすれば、GR00Tはロボティクス分野における同等の存在を目指しています。1つのモデルで「見て、理解して、動く」一連の処理を実行できるのが特徴です。
GR00T登場以前は、ロボットの制御モデルは「タスクごとに専用に学習する」のが一般的でした。GR00Tは事前学習+微調整の枠組みをロボティクスに持ち込むことで、新しいタスクへの適応を大幅に効率化しています。
GR00Tバージョン別の違い
GR00Tは2025年3月のN1リリース以降、急速に進化しています。各バージョンの違いを整理します。
| モデル | リリース時期 | ライセンス | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| GR00T N1 | 2025年3月 | オープンソース | 世界初のオープンヒューマノイド基盤モデル。デュアルシステム構造(System 1: 200Hz / System 2: VLM) |
| GR00T N1.5 | 2025年中 | オープンソース | N1の改良版。エンドエフェクタの汎化能力を強化、より少ない教示データでの学習を実現 |
| GR00T N1.6 | 2026年1月 | オープンソース | Cosmos Reason統合。全身制御と文脈理解を実現。胴体・腕の自由度が向上 |
| GR00T N1.7 | 2026年3月 | 商用ライセンス(早期アクセス) | 汎用ロボットスキルと高度な器用操作制御を搭載。商用ライセンス版の最初 |
| GR00T N2(プレビュー) | 2026年末予定 | 未定 | DreamZero研究ベース。World Action Modelアーキテクチャ。既存VLAモデル比2倍以上の成功率 |
出典: NVIDIA Research「GR00T N1.5」 、NVIDIA GTC 2026発表
N1からN1.7までの進化のポイント
- N1(2025年3月): 基盤モデルの登場。研究目的を中心に普及
- N1.5(2025年中): エンドエフェクタの汎化能力を強化。少ない教示データ(数十回程度)でも新タスクを習得できるようになり、実用化への大きなステップとなった
- N1.6(2026年1月): Cosmos Reason(VLM)統合により、状況理解と動作計画の精度が大幅に向上
- N1.7(2026年3月): 商用ライセンス開始。早期アクセスプログラムで主要ロボット企業に提供開始
- N2(2026年末予定): DreamZero研究を基盤としたWorld Action Modelで、汎化能力を抜本的に強化
N2は社内ベンチマークであるMolmoSpacesとRoboArenaで1位を記録したと公表されており、実用域に近づきつつあります(NVIDIA)。
GR00Tファミリーの派生モデル
GR00Tはコアとなる基盤モデル(N1〜N2)に加えて、特定用途向けの派生モデルも展開されています。
| 派生モデル | 用途 |
|---|---|
| GR00T-Mobility | 移動・ナビゲーション特化。Isaac LabのRL(強化学習)と模倣学習をベースにしたワークフローで、多様な設定のモビリティジェネラリストを訓練 |
| GR00T-Mimic | 少数の人間の教示動画から動作を模倣学習する派生モデル。データ効率の高い学習が特徴 |
| GR00T-Dreams | 動画からシミュレーション的に行動を学習する研究プロジェクト |
これらの派生モデルにより、GR00Tは「単一の万能モデル」ではなく「ヒューマノイド向け基盤モデルファミリー」として位置づけられています。
GR00Tのアーキテクチャ:デュアルシステム構造
GR00T N1の最大の特徴は、人間の脳を模したデュアルシステム構造です。心理学者ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』で知られる「System 1(直感)」「System 2(熟考)」の概念を、ロボット制御に応用しています。
| 層 | 役割 | 処理速度 | 担当 |
|---|---|---|---|
| System 1(高速思考) | 反射・直感的動作 | 200Hz | 連続的なロボット動作の生成 |
| System 2(低速思考) | 環境認識・推論 | 数Hz | VLMベースの状況理解、指示解釈、行動計画 |
System 1:高速制御層
人間が熱いものに触れたとき反射的に手を引っ込めるように、ロボットも瞬間的な反応が必要です。System 1はモーター制御やバランス維持といった、ミリ秒単位の判断が必要な処理を担当します。200Hzという高頻度で動作指令を生成することで、滑らかで安定した動きを実現します。
System 2:推論層
「コップを取って」と言われたとき、コップがどこにあり、どう持てば落とさないか、どの順番で動けばよいか——こうした計画はSystem 2が担当します。VLM(Vision-Language Model)ベースで、カメラ映像と言語指示を入力にして、System 1に対する指令を生成します。
この二層構造により、GR00Tは「素早い動作」と「賢い判断」を両立しています。
GR00Tの学習方法:合成データの活用
GR00Tの学習では、実世界のロボットデータだけでなく、シミュレーションで生成された合成データが大量に使われています。
- Isaac Sim: NVIDIAの高精度物理シミュレーション環境で訓練データを生成
- Cosmos: ワールドモデルで物理シミュレーションを実行
- DreamZero: GR00T N2の基盤となる研究プロジェクト。動画から学習する手法
NVIDIAの公開した技術レポートによれば、GR00T N1は合成データと実データを組み合わせることで、実データのみと比較して40%の性能向上を達成しています(arXiv)。
実世界でのデータ収集は時間とコストがかかるため、シミュレーション学習はフィジカルAIの実用化において重要な技術です。
GR00Tを採用している企業
GR00Tの最大の強みは、ほぼ全ての主要ヒューマノイドロボット企業が採用または評価していることです。
ヒューマノイドロボット企業
- Agility Robotics(Digit)
- Boston Dynamics(Atlas)
- Figure AI(Figure 02/03)
- 1X Technologies(NEO)
- NEURA Robotics
- Apptronik
- Humanoid
産業ロボット・隣接領域
- Amazon Robotics
- Caterpillar
- Hexagon
- Franka Robotics
テック・医療・シミュレーション
- LG Electronics、Salesforce、Meta
- LEM Surgical、Medtronic
- Disney Research、Google DeepMind(Newton物理エンジンを共同開発)
これは、ロボティクス業界における事実上の標準(デファクトスタンダード)になりつつあることを意味します。NVIDIAは「ロボティクスのAndroid」を狙う戦略を明確化しており、GR00Tはその中核です(NVIDIA)。
GR00TとJetson Thor:基盤モデル+エッジコンピュータ
GR00Tはあくまで「ソフトウェア(モデル)」です。これをロボット内部で実際に動かすには、高性能なエッジコンピュータが必要になります。それがNVIDIA Jetson Thorです。
| 項目 | Jetson Thor |
|---|---|
| アーキテクチャ | NVIDIA Blackwell GPU |
| AI演算性能 | 最大2,070 FP4 TFLOPS |
| メモリ | 128GB |
| 消費電力 | 130W |
| CPU | 14コア Arm Neoverse-V3AE |
| 前世代比性能 | Jetson AGX Orin比 7.5倍のAI演算、3.5倍の電力効率 |
| 開発キット価格 | $3,499〜 |
| モジュール価格(T5000) | $2,999〜(1,000個単位) |
GR00T(モデル)+Jetson Thor(コンピュータ)+Isaac Sim(学習環境)+Cosmos(ワールドモデル)の組み合わせが、NVIDIAのフィジカルAIプラットフォームの全体像です。
廉価版のJetson T4000(1,200 FP4 TFLOPS、64GB、70W、$1,999/1,000個単位)も2026年1月に発表され、より幅広い価格帯のロボットへの展開が進んでいます。
GR00Tを試すには?開発者向けリソース
GR00T N1.6まではオープンソースで公開されているため、開発者は自由に試せます。
- Hugging Face: モデルウェイトと推論コード
- GitHub: NVIDIA公式リポジトリ
- Isaac Sim: シミュレーション環境(無償)
- Jetson Thor開発キット: 物理ロボットでの実行($3,499〜)
商用利用を検討する場合はN1.7以降の商用ライセンスが必要です。NVIDIA Inceptionプログラム経由で早期アクセスを申請できます。
NVIDIAの「ロボティクスのAndroid」戦略
NVIDIAは自社でヒューマノイドロボットを製造していません。代わりに、ロボット開発に必要な要素技術を水平的に提供することで、業界全体の標準を握ろうとしています。
| レイヤー | NVIDIAの提供物 | 例えるなら |
|---|---|---|
| 基盤モデル | GR00T | OS(Android) |
| シミュレーション | Isaac Sim | 開発者ツールキット |
| ワールドモデル | Cosmos | 物理エンジン |
| エッジコンピュータ | Jetson Thor | スマホのSoC |
| クラウド | DGXクラウド | Google Play Services |
スマートフォン市場でGoogleがAndroidを通じて多数のメーカーに利用された構造を、NVIDIAはロボティクス市場で再現しようとしているのです。
ロボティクスシミュレーション・開発ツール市場は2028年に年間$42億規模に達すると予測され、NVIDIAは40〜50%のシェアを獲得する見込みです。
よくある質問(FAQ)
GR00Tはオープンソースですか?
GR00T N1からN1.6まではオープンソースで公開されており、Hugging Faceからモデルウェイトをダウンロードできます。N1.7以降は商用ライセンス版で、早期アクセスプログラム経由で主要ロボット企業に提供されています。
GR00Tと他のVLAモデル(Helix等)の違いは?
GR00Tは複数のロボット形状・タスクに汎用的に適用可能なオープンな基盤モデルである点が特徴です。Figure AIのHelixは自社ロボット(Figure 02/03)に最適化されたクローズドなVLAモデルで、自社ハードウェアと組み合わせた商用展開が前提です。両者は競合関係にあります。
GR00Tを使えばどんなロボットでも動かせますか?
GR00Tはヒューマノイドロボット向けに設計されていますが、一定の自由度を持つロボットアームや二足歩行ロボットにも適用可能です。ただし、各ロボットの形状やセンサー構成に合わせた微調整(ファインチューニング)は必要で、まったく異なる構造のロボットへの転用は容易ではありません。
GR00Tを試すには何が必要ですか?
最低限、NVIDIA GPU搭載のPCとIsaac Simがあればシミュレーション上で試せます。物理ロボットでの実行にはJetson Thor開発キット($3,499〜)が必要です。Hugging FaceとGitHubで公開されているサンプルコードから始めるのが一般的です。
GR00T N2はいつ公開されますか?
NVIDIAはGTC 2026(2026年3月)でGR00T N2のプレビューを発表し、2026年末の本格リリースを予告しています。DreamZero研究を基盤としたWorld Action Modelアーキテクチャを採用し、既存のVLAモデル比2倍以上の成功率を示すと公表されています。
NVIDIAがGR00Tを発表したのはいつですか?
NVIDIA CEOのJensen Huangが2024年3月のGTC 2024でProject GR00Tを構想として発表したのが最初です。実際のモデル(GR00T N1)が公開されたのは1年後の2025年3月のGTC 2025で、世界初のオープンヒューマノイド基盤モデルとしてリリースされました。
GR00T N1とN1.5の違いは何ですか?
GR00T N1は世界初のオープンヒューマノイド基盤モデルとして2025年3月に登場しました。N1.5はその改良版で、エンドエフェクタ(ロボットの手先)の汎化能力が強化され、より少ない教示データ(数十回程度の人間の操作)で新しいタスクを学習できるようになっています。実用化に向けた重要なステップアップでした。
NVIDIAはどんなロボット企業に投資していますか?
NVIDIAは直接出資としてSkild AI(2025年12月、SoftBankと共同で$14億)への出資が代表的です。投資以外でも、Figure AI、Boston Dynamics、Agility Robotics、1X Technologies、Apptronik、NEURA Roboticsなどの主要ヒューマノイド企業にGR00TやJetson Thorといったプラットフォームを提供する形で深く連携しています。
まとめ
NVIDIA GR00Tは、ヒューマノイドロボット向けのオープンファウンデーションモデルとして、2025年3月のN1リリースから1年で急速に進化を遂げました。デュアルシステム構造による「素早く賢い」制御を実現し、ほぼ全ての主要ヒューマノイドロボット企業に採用される事実上の標準となりつつあります。
2026年末に予定されているGR00T N2では汎化能力が抜本的に強化される見込みで、フィジカルAIの実用化を一気に加速させる可能性があります。Jetson Thor、Isaac Sim、Cosmosと組み合わせたNVIDIAの「ロボティクスのAndroid」戦略は、フィジカルAI時代の覇権を握るための布石と言えます。
フィジカルAIの全体像についてはフィジカルAIとは?生成AIとの違い・主要企業・市場規模を徹底解説もあわせてご覧ください。GR00Tと連携するNVIDIAのワールドモデルはワールドモデルとは?NVIDIA Cosmos解説、フィジカルAI関連の企業全体はフィジカルAI関連企業30社まとめで詳しく解説しています。VLAモデルの技術詳細はVLAモデルとは、関連するロボット技術トレンドは最新ロボット技術トレンドをご参照ください。
本記事の情報は公開情報に基づいて作成しています。正確性には万全を期していますが、最新情報はNVIDIA公式サイトをご確認ください。
